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「損保業界」と「発展途上国」を結ぶ会の事務局です。

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  今日のテーマは 東京海上HD 自己株式の消却 です
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東京海上HDが自己株式の消却を発表しました。
昨今の株安を受け、自己株式の消却を決定したようですが、消却する株式数は35,000,000 株で、
消却後の発行済株式総数は769,524,375株となりますので、約2%分を消却したことになります。


資本主義経済において、自社の時価総額を最大化することは、企業にとっての大命題です。
時価総額を上げるには、株価を上げる必要がありますが、株価を上げるためには投資家にとって
魅力ある株であることを証明しなくてはいけません。


株価上昇が見込まれることや配当を多く出して、投資家にとっての投資先として選定してもらう
必要があります。東京海上HDは昨今の株式市場の相場を踏まえ、他社比で潤沢な、余裕のある
資金力を背景に、自己株式の消却に動いたわけです。



さて、ここまで説明して自己株式???という方もいらっしゃると思いますので、自己株式に
ついて解説します。



自己株式とは、自社で保有している自社株式を指します。
たとえば、A社が発行した株式をA社自身が取得して、保有しているとします。そのような株式
が自己株式で、通称「金庫株」とも呼ばれています。

もともと商法では、自己株式を取得することを原則として禁止していました。
なぜなら、経営者の支配権の維持(自己株式を取得することによって株主の議決権を奪い、会社
への支配を強めることができる)や、インサイダー取引(会社の内部者情報を知ることができる
立場にある会社役員等が、その立場を利用して重要な内部情報が公表される前に会社の株を売買
すること)、株価操縦に悪用される恐れがあるなど、何かと弊害があると考えられていたからです。


しかし平成13年の商法改正によって、自己株式の取得は原則として自由となりました。
この改正の理由としては、先に挙げたような弊害が自己株式を取得するにあたって一定のルールを
整備することで防げると判断されたこと、また、自己株式を活用したいと望む産業界から取得を
自由にして欲しいという要望が寄せられていたことなどが挙げられます。



そして、この自己株式の取得や消却のメリットについては、MBAのファイナンスの授業では次の
ように習います。



●財務指標の改善効果

 会社の当期純利益を、会社が発行する株式総数(発行済株式総数といいます)で割ると、
 「1株当たり当期純利益」という財務指標が算出できます。この1株当たり当期純利益の数値が
 高い会社ほど、株価も高くなります。

 自己株式を取得して株式を消却すると発行済株式総数が減少します。これと併せて当期純利益を
 前期と同じだけ計上することができれば、1株当たり当期純利益が増加することになります。
 つまり「株価の向上」が期待できるわけです。

 最近は、資本を効率的に使うことを重視した経営をしている会社が多いので、経営者にとって
 この効果は非常に魅力的です。さらに、自己株式の取得によって配当負担を減らしたりなど、
 会社の財務戦略としても活用できます。東京海上HDの主たる狙いだと考えられます。



●ストックオプションへの活用

 また、近年、ストックオプション制度を導入する会社が増えています。
 ストックオプションとは、役員や従業員に対して、報酬や給与の代わりに会社の新株予約権を
 付与する制度です。将来、会社の業績が向上し株価が上昇したときに新株予約権を行使すれば、
 役員・従業員は株価の上がった株式を取得できるので、その分の利益が得られるというわけです。
 そのためストックオプションには、役員や従業員のやる気を引き出す効果があります。

 自己株式を保有しておくと、役員や従業員からストックオプションの権利行使があったときに、
 わざわざ新株の発行をする必要はなく、自己株式を交付すれば済みます。つまり、新株発行で
 対応するよりも費用が節減できるというわけです。



●合併や会社分割などの企業組織再編への活用

 たとえば、A社がB社を吸収合併するとします。
 この場合、存続会社であるA社は、消滅会社であるB社の株主に対してA社株式を交付すること
 になります。そのためB社の株主はB社株式を失う代わりに、原則として同じ価値のA社株式を
 取得することになります。

 このとき、A社がB社の株主にA社株式を交付する方法としては、新株発行による方法と自己
 株式を交付する方法があります。A社が自己株式を保有していれば、それを交付した方が新株
 発行に伴なう面倒な手続きや費用を節減できます。また、合併や会社分割などの企業組織再編
 を機動的に行なうことができる点にもメリットがあります。

 海外保険会社のM&Aの手段は多様ですが、株式交換などをたくみに使うことを企図した戦略
 かもしれません。


●中小企業での相続税対策

 これは大企業である損害保険会社にはあまりなじみはありませんが、中小企業を担当する損保
 社員や中小企業を顧客に持つ保険代理店にとっては重要な知識です。

 株式を公開していない中小企業が自己株式を取得した場合、原則として、株式を売却した株主
 に配当所得が発生します。

 しかし平成16年度税制改正で、非上場会社が株式の相続を受けた人から自己株式を取得する
 場合で一定の要件を満たすものは、配当所得課税の対象外とされ、譲渡益課税のみが課される
 こととなりました。この改正によって税額が大幅に圧縮され、以前より手元にお金が残るよう
 になったのです。中小企業にとって、これは相続税の支払い資金を捻出する手段として利用で
 きます。不動産や有価証券をたくさん相続しても、現金がなければ相続税を支払うことができ
 ないという問題が中小企業によく見受けられますが、自己株式を取得することによって、有価
 証券を一部現金化し、それを相続税の支払い資金に当てることができるのです。
 これはケースによっては資金繰りの選択肢が増えるという意味でとても有利なことです。




以上のとおり、会社が自己株式を取得(消却)するメリットについて解説しましたが、肝心の取得
方法について、やや実務的にはなりますが、参考までご案内します。


自己株式を取得するには、定時株主総会で自己株式の取得に関する議案を提出し、株主の承認を
得なければならないと商法で定められています。これは株主の保護を図るためです。
(東京海上HDは、2012年5月18日開催の取締役会において決議したとのことで、株主総会で株主
 の承認を取り付けるのでしょう)

また、定時株主総会に提出する議案には、自己株式の取得価額の総額(トータルでいくらまで自己
株式を取得できるのかという枠)などを示して承認を取ることになります。また、その総額は配当
可能利益(配当は一定の限度額の範囲でしかできないことになっており、その限度額の上限のこと)
の範囲内で定める必要があります。

自己株式を取得する財源は会社の財産ですから、配当の限度額を超えた自己株式を取得することは
許されません。これは、債権者の保護を図るための措置になります。


自己株式を取得したために、期末日の配当可能利益がマイナスとなり、結果的に配当できなくなって
しまうことも認められません。自己株式を取得するときは、その営業年度の業績も勘案した上で取得
しなければならないというルールもあります。


自己株式の取得には、株主や債権者に不利益を与える可能性があるため、前述のような手続きが必要
となるというわけです。もし、定められた手続きを怠った場合、損害賠償請求を提起されるなど、
大きなトラブルに発展する恐れもあることは経営者が踏まえなければいけないリスクです。


一方で、自己株式を取得することにはデメリットもあります。

自己株式の特性をきちんと理解した上で活用すれば大きなデメリットはとくにないと思われますが、
強いて挙げれば、次の点に注意が必要です。

自己株式は、株主にお金を払って取得します。
ですから、自己株式の取得の際には会社の資金繰りをよく検討しておかないと、後で資金化したいと
思ったときに困ることになる恐れがあります。というのも、取得した自己株式は通常の資産のよう
には譲渡や売却ができないからです。


商法では、自己株式を処分するときには新株発行とほぼ同じ手続きを踏むことを要求しています。
したがって、取締役会の決議や公告など、さまざまな手続きを行なう必要があり、処分するまでには
手間も費用もかかるのです。お金に余裕のない会社は将来の資金繰りなどを把握した上で、慎重に
自己株式の取得を検討することが必要です。

この点は中小企業にとっては死活問題になるので大変重要ですが、東京海上HDのような大企業に
おいては、将来の決算見通し、自社の財務戦略を踏まえ、決断することになるのでしょう。


ビジネスにおいては、ファイナスの知識も重要です。
また、企業戦略の根幹を知るためにも、ぜひ自己株式の消却などを契機にファイナンスに関する
勉強を始めるとよいかもしれません。


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