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「損保業界」と「発展途上国」を結ぶ会の事務局です。

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  今日のテーマは 東京海上動のWACC です
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東京海上の「WACC」についてです。

東京海上HDは東京海上日動を通じ、米国の「デルファイ」を買収すると発表し、
買収額は約2050億円で、2012年度第1四半期(4−6月期)中に完全子会社とする
予定とのことです。

http://ir.tokiomarinehd.com/ja/IRPresentation/2011/IndexContent/06/IndexContent/IndexLink/pdf2/delphi_J.pdf

デルファイ買収のIR資料からすると、過去10年間にわたり、デルファイ社は
順調に利益を上げているとのことです。


直近2010年度決算では、1,420 百万ドル(1ドル80円とした場合、約110億円)
の利益が出ています。IR資料には確実な記載はありませんが、マクロ環境
の影響を受けにくいマーケットを保有しているという見解の下、劇的な環境
変化がない限り、100億円前後の利益がデルファイから見込まれるのでしょう。


さて、事業投資をする際、その投資からあがる「利益」が重要となります。
たとえば、株投資と銀行貯金を比べるときは、1年間の株投資による売却益と
1年間の利息を比較し、有利な方を投資先に選ぶと思います。


今回の東京海上の事業投資も同様、儲けがいくらになるのか、投資に対する
利益率が何%になるのか、を事前に分析しているはずです。

そこで、「WACC」という概念が出てきます。

WACCとは、企業価値の計算に用いる割引率で、「加重平均資本コスト」
と呼ばれています。英語では、Weighted Average Cost of Capitalとなり、
頭文字を並べたものがWACCです。


このWACCは、株主資本コストと負債資本コストを加重平均して求めます。
(つまり自己資本と他人資本の調達コストを加重平均していることになります。)

計算式は以下のとおりです。

 WACC = [rE × E/(D+E) ] + [rD×(1-T) × D/(D+E)]

  rE = 株主資本コスト
  rD = 負債コスト
  D =有利子負債の額(時価※)
  E =株主資本の額 (時価※)
  T =実効税率

※ファイナンス理論では、全て時価で考えるのが基本です。
 しかし、有利子負債のように時価と財務諸表上の簿価とで大きな差がない場合
 は簿価を使う場合もあります。


ファイナンス学習が未経験の方には、少し難しいと思いますが、企業経営に
近い立場につきたい方には、必須の知識となりますので、ぜひ、概要だけでも
確実に抑えてください。


つまり、企業は、WACCで設定した「何%」以上の収益を生まない事業投資は
しません。WACCを10%とした場合、100億円投資に対して、10億円の利益を
生むことが求められます。


そこで、デルファイに話に戻しましょう。
仮説となりますが、約2000億円を使って、約100億円が毎年見込まれるデルファイ
を買収したわけですから、この事業投資上の収益率は約5%です。

つまり、東京海上の投資判断上の収益率の最低バーは「5%」と仮説を立てること
ができます。


そこで、仮説検証のために、少し古い話になりますが、フィラデルフィアの買収
を振り返りましょう。
http://ir.tokiomarinehd.com/ja/Topics/Topics-1352300913269794776/TopLink/RedirectFile/080723irpresentation(j).pdf

約5000億円投じて買収したフィラデルフィアも過去10年にわたり、高い収益を
上げてきたことを買収の理由としていますが、当時の直近2007年度決算では、
約300百万ドル(1ドル85円とした場合、約255億円)ですから、こちらも約5%の
利益を見込んでいたことになります。


実際のところは、WACCは5%超なのかもしれませんが、今後も事業投資を
積極果敢に行うのであれば、5%以上の投資対効果が安定的に望める案件に対して
ライバル社に先んじて投資していくのではないでしょうか。


(ご参考)

今回は、MBAで習う「ファイナンス」の一部について解説しました。
折角の機会ですから、簡単に「ファイナンスの原則」について振れてみたいと
思います。 興味をもたれた方はぜひ、ファイナンスの入門書を一読してください。


●ファイナンスの原則について

ファイナンスでは、時間軸をまたいで未来の企業、事業の価値を見極めます。
企業会計における損益計算書がある一定期間の活動の結果を、貸借対照表が、
ある一瞬の企業の資金調達・運用の状態を考えるのに対し、時間軸をまたぐ
という点がファイナンスの特徴となります。


貸借対照表や損益計算書は会計原則というルールに則って記述されるもので、
必ずしもお金の実態の動きを表すものではありません。しかし、企業や事業
について、未来の評価を行うファイナンスという分野では、お金の出入りを
企業の実態に即した形で見ていく必要があります。

そのため、ファイナンスでは、通常の企業会計とは異なり、大きく2つの原則
に従います。


1.利益ではなくキャッシュフロー 

ファイナンスでは、まず利益ではなくキャッシュフローで考えるという原則が
あります。なぜなら利益は経営者の恣意が入る一方で、キャッシュフローは
実際のお金の動きという事実をベースにしたものだからです。

利益に経営者の恣意が入る代表例として、会計方針(棚卸資産の計上方法や
減価償却の方法)を経営者の意思によって変えられることがあります。実際に、
会計方針を大きく変更したことで、大きな利益回復を演出した例もあります。
そのため、利益は「経営者が作るもの」とも言われます。

その点、キャッシュフローは経営者の恣意が入らず、企業や投資活動における
お金の動きの実態を表すことができるので、事実をベースに評価を行うことが
できます。(キャッシュ「Cash is King」と言われていわれる所以です)


2.簿価ではなく時価 

ファイナンスを考える上で、もうひとつ重要なことが、簿価ではなく時価で
考えるという原則です。これも利益ではなくキャッシュで考える理由と同じで、
企業活動や投資活動を正味の価値で判断するためです。

貸借対照表に記載してあるものは、全て簿価で書かれていますが(資産は減損
処理により時価に近い形で表されるようになりましたが)、事実を表すファイ
ナンスでは全て時価で考えます。そのため、貸借対照表の資本の変わりに時価
総額を用い、資産(ビジネス用の資産+金融資産)の変わりに企業価値(事業
価値+金融資産)を用います。

負債についても時価が基本ですが、負債の場合は簿価と時価の乖離が少ないと
考えられることと、そもそも時価を正確に求めるのが困難という理由から簿価
を用いるケースが多くなっています。

ファイナンスでは、リスクを考える上で負債と資本の比率を考えることが非常
に多いのですが、このときに(特に)資本は簿価ではなく時価(時価総額)を
用いることに注意が必要です。



少し複雑ではありますが、ファイナンスの原則論について触れました。
もしご興味があるようでしたら、ここから先については、ぜひ、ご自身でファ
イナンスに関する本をご一読ください。必ず、将来のためになるはずです。

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